香港-Hong Kong-
ドタバタでタイを発ち、無事香港行きの飛行機に乗る。

「早起きしたし、じゃあ改めて寝ようかな…」
けどその前に

「エクスキュースミー!ちょっと小腹がすいたんですケド〜…」
懲りずに2度目のハーゲンダッツに挑戦した。
「Ah, I'm sorry we don't have…」
「あ、じゃあいいです。寝ますから。」
というわけで、ガッカリしたと共に、その後の朝食攻撃を阻止して、私は眠りについた。


そして、昼頃、飛行機は香港に着陸した。
香港といえば、ビルとビルの隙間を縫うように、飛行機が飛んでいるイメージがある。
私は着陸頃に起きて、外を眺めていたのだが、見えるのはだ。
「あれー、ビルないじゃーん…」
どうやら、最近空港は市街地から離れた場所に移ったらしい。
まぁ確かに飛行機の騒音ってすごいし、安全面からも良からんものね。

空港に降り立ち、ロビーへ出た。

さて、どうしよう。

今までの旅の中で、今回のこの香港は、一番無計画なまま来てしまった。
ガイドブックもないし、何があるのかも全く知らない。
とりあえず、ロビーに置いてある観光パンフレットを数枚とって、椅子に座る。
しかし、私は典型的な地図の読めない女なので、全くわからない。

ここに来て初めて知ったのだが、地図を見る感じ、香港はいくつかの島に分かれているらしい。
主な観光地はおそらく「香港島」というメインの島にあるのだろうが、
察するに、この空港のあるところは、香港島ではないっぽい。
何せ、明日の朝の便で北海道へ帰るため、半日の観光だ。
そんな島を渡るような大冒険はちょっと危険ではないだろうか。

「……」
結局どうすれば良いのかわからなくなった私は、 観光客用のインフォメーションカウンターへ行った。
「今から香港を観光したいんですけど、
半日で、お金をかけずに、かつ“これが香港だ!”っていうのをエンジョイ出来るところを教えてください。

「Oh, OK...」
薄汚い私を前に、美しい笑顔のお姉さんは、地図をバサバサと広げて説明を始めた。
お姉さんの話の結果、私の本日の観光コースはこうなった。

空港からバスに乗って市街地へ出て、博物館関係を回る。
なぜなら本日水曜日は、博物館関係が全て無料開放DAYなのだそうだ。
「安く済ませたい」という私の要望を しっかりカバーしている。
そして、その後に、「Avenue of Stars(星光大道)」へ行く。
そこは港の近くで、夜には向こうに香港島の夜景が見えるらしい。
ついでに、毎晩レーザーショータダ で見物出来るという。
お姉さん、ホンットわかってる★

とりあえず、お金を両替する。
香港ドルという新しい通貨。
私はレートとか、そういうのが全然わからない人なので、適当に二千円分くらい出す。
すると、お札が数枚と小銭が数枚。
「え、これだけ…?」と思わず言いそうになってしまう。
インド・ネパール・タイと比べ、物価が上がっているだろう事はわかるが、 これは予想以上だ。
カバンの中には、タイで買いこんだ正体不明のお菓子がたくさんある。
今日はこれでしのぐ事になりそうだ。

早速バスに乗り、市街地へ出る。
バスは2階建てだ。もちろん2階に乗る
窓からたまに、とてつもなく高いビルが見える。
何のオフィスかと思えば、それが普通の市民が暮らすマンションなのだ。
おぉ、香港だ…。
バス マンション
(左)香港名物、2階建てバス          (右)普通のマンション。高過ぎ。

香港は、バス停の名前も漢字で書かれているし、インドやタイに比べ、だいぶわかりやすい。
私は適当な場所で降り、少し歩いてみる事にした。

香港は、とてもインターナショナルだった。
白人のみならず、民族衣装を着た黒人や、ターバンを巻いたインド人もたくさんいる。
彼らは観光ではなく、ここで働いているのだ。
苫小牧なら白人を見ただけでオッとなってしまうし、
黒人なんて、札幌の狸小路でウロついている怪しげな男達しか知らない私には、
本当に色々な人種が入り混じっているこの空間が、とても新鮮だった。

私は、1本1本の小道をジグザグとくまなく歩いた。
そうこうしているうちに、博物館は閉まる時間になってしまった。
せっかく無料開放デーだったのでちょっともったいなかったが、 実は博物館とかはあまり興味がないタイプなので、
まぁ見れたらそれも良かったけど、見れなくてもまぁいいやという感じで、 私はAvenue of Starsへ向けて歩き始めた。

夕方の4時頃、そこに着いた。
気持ちの良い風が吹いており、あたりはカップルや家族連れ、 世界各国からの観光客でにぎわっていた。
私は空いていたベンチに腰を下ろし、タイで買った怪しい煎餅モドキを食べながら、 家族に宛てて、最後の手紙を書いた。
(私は、旅の間毎日家族に宛てて手紙を書いていた。)
今回は42日間の旅。
ネパールで風邪をこじらせた時や、ボンベイまで34時間列車に揺られていた時は、 旅が長く感じたりもしたが、
やっぱり最後の日が来ると、早かったなぁと思う。
目の前に広がる出来あがった香港のビル群を眺め、 全く対照的なインドの雑踏や、ネパールの寺々、タイの熱気などが頭をよぎる。





ひと通り思い出巡りが終わり、手紙も書き終わり、さて、という感じなのだが、 時計を見ると、まだ6時にもなっていない。
レーザーショーは、夜の8時からだ。
とりあえず辺りを散歩してみたりするが、余る時間を潰しきれない
こういう時インドなら、 「ハロージャパニ!マイフレンド!」と絶対誰かが絡んできて、
良しも悪しも、人と関わらざるを得ないのだが、 ここでは誰も声をかけてくれない。
日本もそうだけど、都会になると、そうなるのかなぁ…?

やっと辺りが薄暗くなってきた。
レーザーショーまではまだちょっと時間があるが、 海の向こうに見える香港島のビル群が、夜景を創り出している。
本当にビルだらけで、たくさんの明かりが灯っている。

…確かに綺麗かもしれないけど、どうしても頭に浮かぶのは、
ネパールやタイの屋台を照らす、ちょっと赤っぽい、レトロな照明。
どこかホッとする、ぬくもりのある灯り。
「100万ドルの夜景」なんてよく言うけれど、
「100万ドルって米ドルか?それとも香港ドルか?」 なんて、つまらない疑問しか出てこなかった。
どうやら田舎娘の私には、香港は都会過ぎたみたいだ。
香港島1 香港島2
(左)昼間の香港島                 (右)夜の香港島。

私は、レーザーショーを断念し、街中へ戻る事にした。
すると、街中の看板が、ネオンでギラギラと光っている。
「そう、これ!これこそ私の思い描いてた香港!!」
漢字で書かれた看板が、至るところで色を変えている。
私はしばらくそのネオンを見つめ、 これで十分に満足したので、空港行きのバスに乗った。
そう、今晩は空港で寝るからです。
看板1 看板2 看板3
(左・中)街中の夜景。こういうの大好き。(右)やはり彼を語らずして香港は語れないでしょう。

空港に戻り、ベンチ探しを始める。
香港の空港は24時間空港なのか、夜遅くになっても人も多いし明かりも落ちない。
私は隅の方の、人目につかないベンチを見つけ、
今朝飛行機で失敬した キャセイパシフィック航空ブランケットを体に巻きつけて眠りについた。
空港のベンチは意外に寝心地が良く、インドの寝台列車よりかずっと眠れた。

朝になり、空港のトイレで顔を洗い、歯を磨く。
軽いホームレスな私は、続いて売店に入り、朝食を物色。
ここで私はまなっぺとの中国旅行以来、久々にエッグタルトを見つけた。
早速購入し、ロビーのベンチに座って朝食タイム。
エッグタルト、日本ではなかなかお目にかかれないが、絶対日本人も好きだと思う。
家族に買って帰るか、でも長時間保存出来るものかわからないし… とウロウロしているうちにエッグタルトは完売し、
私は早々と出国手続きを済ませ、北海道行きの便の乗り場へ向かった。

(上)空港内で見つけたトイレ掃除中の看板。なぜかカナリ気に入った。

いよいよこの旅最後の飛行機。
私にとって、ラストチャンス 「エクスキュースミー。ちょっと小腹が…」(←懲りない)
すると、キャビンアテンダントは何も言わずに奥へ下がった。
オ、遂に出てくるかな、ハーゲンダッツ…!
すると、日本人のキャビンアテンダントが出てきた。
「申し訳ございませんが…」
えー、これがラストチャンスなのに…!
初めて日本人のアテンダントが出てきたという事で、 私は母国語でダイレクトに核心を突いた。
「や、なんか、お腹すいたって言ったら ハーゲンダッツもらえるって聞いたんスよね」
前までのように英語でのやりとりなら、 NOと言われたら「Oh, OK OK!!」 で終わらせてそれ以上深入りしないが、
何せ私は日本語のネイティブスピーカーだ。遠慮はしない。
すると、日本人のこのアテンダントはこんな底意地汚い小娘に、親切に説明してくれた。
「えぇ、確かにアイスクリームを載せている便もあるんですが、 この便に関しましては、本日は載せていないんですよ…」
そう言われては仕方ない。
「色々すいませんでした。どうもありがとうございました」 と私は深々と頭を下げて礼を言った。

結局ハーゲンダッツにはありつけぬまま、飛行機は新千歳空港に到着した。
空港には母が迎えに来てくれており、
出発の時は夏だったのに、すっかり秋になった景色を眺めつつ、帰途についた。

42日間4カ国の旅。
その国それぞれの色んな世界を見る事が出来て、すごく濃かった。
もう社会人はすぐそこだけど、絶対旅は一生やめられないなぁ…。


おしまい



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